【イベントレポート】 「岸野雄一特別講義&DJ 世界への窓としての出島」


岸野雄一特別講義&DJ「世界への窓としての出島」が5月16日、出島旧長崎内外クラブで開催されました。長崎大学の「長崎創楽堂アートマネジメント講座」の一環として企画されたこの特別講義、いま日本中で魅力的なイベントを数多く手掛ける岸野さんのお話が聴けるとあって、多くの方にお集まりいただきました。今回は、かつて海外交流の窓口として機能してきた出島をテーマに、文化交流史から始まり未来への展望について、海外公演も多く経験してこられた岸野さんの実体験をふまえながらの講義が行われました。(左から長崎雑貨「たてまつる」店主・高浪高彰さん、岸野雄一さん、チトセピアホール館長・出口)


18時、開場とともにDJがスタート。明治36年に建てられた瀟洒な雰囲気の英国式洋風建築の中で、タイクーントッシュから808states、クラフトワーク、水前寺清子、ペイル・ファウンテンズが岸野さん独自の解釈によってノンストップでミックス。DJプレイをはじめて目の当たりにするという受講者の方も沢山いらっしゃって、興味津々のご様子でした。

30分と短いながらも濃密なDJの後に、講義が始まりました。今回は出島をテーマにトークショー形式で講義が進められます。

■日本における海外からの音楽の受容
“かつて出島で奏でられていたであろう音楽を持ってきました”と言って岸野さんがターンテーブルに載せたレコードはSyntagma Musicum「Nanban Music in Japan」。リュートを始めとする室内楽アンサンブルによって録音された古楽のレコードです。当時の出島で流れていた音楽、そして、それを出島の対岸で耳にした長崎の人たちはどのような感情を抱いただろう。300年以上の時を越えて当時の調べに思いを馳せます。また、幕末に海軍伝習所で鳴らされたオランダ海兵隊の太鼓信号についてのエピソードなど、出島の地で音楽を通して追体験するという貴重な体験でした。

■海外から見た日本、日本から見た海外をテーマにした音楽
19世紀後半のヨーロッパで大ブームとなったジャポニズムブームを端緒として、オペレッタ「ミカド」や「ゲイシャ」、「マダム・バタフライ」に描かれた日本。マーティン・デニーのエキゾチックミュージック。「ティファニーで朝食を」や「007は二度死ぬ」に描かれた日本人像。そして細野晴臣、YMO、「キル・ビル」、「ラスト・サムライ」‥。
「エキゾチシズム(異国情緒)」をキーワードに、海外から見たパブリックイメージとしての「日本」、そして海外からの客観的なまなざしにより、パブリックイメージとしての「日本」に気づき、インスパイアされた日本人が自国の文化をリ・エディット、リ・クリエイトしていく過程が紹介されました。

■海外での日本の音楽の受け止められ方
■日本の音楽や文化が今後海外展開していくために必要なこと
岸野さんがライフワークとして続けているレビュー「ヒゲの未亡人」の海外での反応について。音響派や電子音楽、テクノミュージックはどこの国に行っても一定数のファンがいる。大規模な海外公演を行う日本人アーティストがいる一方で、このようにアンダーグラウンドミュージックのクリエイターが海外で活動している、その多様性が担保されてこそジャパンカルチャーが豊かであると言える、というお話が海外と日本の文化の結節点だった出島で展開されるという点において、非常に意義深い内容でした。

自身のコレクションから「出島」をテーマにセレクトされたレコードをかけながらの岸野さんの講義は実践的で具体的な、とても示唆に富む内容でした。講義の終盤、岸野さんの「公共の精神を意識することで、そこに住む人たちが街に愛着を持ち、街が楽しくなっていく」という言葉は、芸術文化活動が地域に根づいていくためのアートマネジメントに携わる人たちにとって大きな励みになったのではないかと思います。岸野さん、ありがとうございました!

【実施概要】
(日  時) 平成29年5月16日(火) 18時~20時30分
(参加者数) 50名
(主  催) 長崎大学「長崎創楽堂を活用したアートマネジメント育成事業」
(助  成) 平成29年度 文化庁 大学を活用した文化芸術推進事業
(企画協力) 長崎市チトセピアホール 指定管理者 有限会社ステージサービス