【イベントレポート】岸野雄一特別講義「地域密着型アートイベントのつくりかた」

title岸野雄一特別講義「地域密着型アートイベントのつくりかた」が8月20日、長崎大学創楽堂で開催されました。長崎大学の「長崎創楽堂アートマネジメント講座」の一環として企画されたこの特別講義、いま東京で魅力的なイベントを数多く手掛ける岸野さんのお話が聴けるとあって大勢の方に受講いただきました。
岸野さんが手がけたイベントの映像を交えて紹介しながら進行するトークショー形式で行われた講義のレポートをお届けします。(左が岸野さん、右は聞き手役のチトセピアホール館長・出口)


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■レコードコンビニ
どこにでもある普通のコンビニに週末の夜だけDJを入れて「レコードコンビニ」というイベントをやっています。大掛かりな仕掛けはなくとも机が3つあればそこはイベント会場になります。100名以上が集まることもあって毎回盛り上がっていますが、このイベントで特徴的なのは参加者のマナーの良さ。店内が混んできたら常連はあとから来たお客さんのために中座するし、ドアのそばにいる人は店内の音漏れがしないように率先してドアを閉めてくれます。このように参加者のマナーやモラル意識が自然と良くなっていくのは、参加者がその場に愛着を感じているからです。「公共の意識」を能動的に持ってもらうためには、その場に集う人がそれぞれに「自分の勝手な振る舞いによってこの場所がなくなっては困る」と意識すること。この意識がモラルの向上に繋がっています。その場に対して、「お金を払ってるから良いだろう」的なお客さん意識を持つか、「自分も場をつくる者の一人である」という当事者意識を持つかでその場の雰囲気は大きく変わりますね。

■3.11で気付いたこと
東日本大震災のころ、なにかあったときに助けてくれるのはSNSで繋がってる趣味が同じ仲間ではなくご近所さんだということに気付かされました。地縁をあらためて見直すことの重要性。みんながこのまちを楽しいものにしていこうという気持ちで文化的に結束していけるのではないか、今はその可能性に賭けてみたいと思っています。

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■盆踊りDJ
みんなが集まれる場所として盆踊りや縁日は重要です。レコードコンビニを続けていたら町内の方から声をかけていただき、この夏に日本橋の盆踊りでDJをする機会に恵まれました。ハウスDJのMOODMANと音頭DJの珍盤亭娯楽師匠にDJをお願いしたのですが、若い人だけでなくお年寄りも踊ってくれてとても手応えを感じました。また、この盆踊りを中野区の八幡神社の宮司さんが見に来ていただいたご縁から、そちらでも同様にお祭りのプログラムを任せていただけることになりました。ここで気をつけたのは任されたからといって盆踊りを全てDJにはしなかったことです。通常の盆踊りにDJを挟むことで従来のお祭りに親しんでいるお年寄りも楽しめるように気がけました。日本古来の音頭と西洋音楽のすり合わせがこの100年うまくいってないと思うこともありますが、それをこの盆踊りDJを通して回復していきたいと考えています。

■地域で活動する
まちに根ざした活動を行うときには事前に信頼関係を築いておくことがとても大事です。日頃から町内会の活動に参加したりしていないと、まちを巻き込んだ活動を急にやろうと思ってもとても困難です。そのために日頃から町内会の清掃活動や餅つき大会に参加して関係性をつくっておくことがとても重要です。
また、地域でアートイベントを行う場合に資金調達は大きな問題です。すみだストリートジャズフェスティバルでは、企業スポンサードといっても頂戴するのはお金だけではなく、地場の企業がつくっているもの、例えばTシャツを提供していただいてスタッフTシャツにするとか、地元の飲食店に出店していただいて出店料を貰うとか、無理のない方法で支援していただいています。そのために援助しやすい方法をこちらから提案できるようなアイデアや知識を蓄積しておくことが求められます。

■地元から海外へ
プロデュースを手がけた海藻姉妹というアーティストに帯同して台湾でDJと演奏会を行いました。台湾ではcicadeという現地のアーティストと合同演奏会を開催したのですが、彼らが国家間の交流といった大規模ものではなく、個人的なつながりから始まってコラボレーションに至ったという草の根的な結実の仕方がとても意味のあるものだと思います。

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■最終的には「人」
まちの中には色々な価値観の人がいます。その価値観の違う人と歩み寄り、摺り合わせをして、まちを楽しいものに育てていく(消費するのではなく)ことが大事ですね。また、文化は自治体から与えられるものだと思うのではなく、住民の中から創りあげていこうという意識も重要です。最初は「どうしたらまちを楽しくできるかな~」って考えるだけでも十分だと思うんです。それでその実現への道筋を考えておく。それが友達や仲間と共有しておくだけでも楽しいし、ふとしたことから実現のチャンスが転がってきたりするものですよ。


ときにロジカルに、ときにユーモアを交えながらの岸野さんの講義は実践的で具体的な、とても示唆に富む内容でした。講義の最後に岸野さんがお話された「自分が楽しく暮らすためにまちのみんなを楽しくする。自分の活動がまわりまわって自分のためになって帰ってくる」という言葉は、地域で芸術文化活動に携わる人には大きな励みになったのではないかと思います。岸野さん、ありがとうございました!

【実施概要】
(日  時) 平成28年8月20日(日) 18時~20時
(参加者数) 30名
(主  催) 長崎大学「長崎創楽堂を活用したアートマネジメント育成事業」
(企画協力) 長崎市チトセピアホール 指定管理者 有限会社ステージサービス